次世代の電動車
近年、路上でハイブリッド車(HV )や電気自動車(EV )などの電動車を見かける機会が増えてきた。トヨタの「プリウス」や、テスラの「モデルS」といったおなじみの車以外にも、いろいろなメーカーの、見た目も大きさも違う車が市場に参入してきている。
とはいえ特にバッテリーのみで動く電気自動車(BEV )を所有するのは、移動手段の枠を超えて”ライフスタイルの選択”にもなるため、まだ検討すべき点がある。それでも車の世界が今、電動化という大きな転換期にあることは間違いない。
ここでは業界をけん引する次世代電動車3台を紹介しよう。
BMW i7 xDrive60
上質な大人のセダン
BMWの完全電動セダン「i7 xDrive 60」(2023年型)は、BMWがBEV分野でいわば再起をかけている車だ。10年ほど前、BMWは自社初のBEVとして「i3」を発売したが、当時は不当と言えるほどの過小評価しか得られなかった。ちょっとオタクっぽくて、それでいて格好良くて、性能も高かった「i3」は、いささかデビューが早過ぎた。
だが、今や機は熟した。BMWは最高の性能を引っさげ、BEVの最高峰と呼ぶにふさわしい車を続々と投入している。その主役に当たるのが、「i7 xDrive60」というわけだ。
「i7 xDrive60」は、2022年に登場した第7世代「7シリーズ」の内燃機関(ICE)モデルと並行して開発された。前後の電動モーターが生み出すのは、最高出力536馬力、最大トルク744Nm。つまりこの全輪駆動車は、直線ではスーパーカー並みの性能を誇るのだ(静止状態からわずか4.5秒で時速約97kmに加速する)。
カリフォルニアで行ったテストドライブで感じたことだが、この車はいわゆるコーナリングマシンではない。そもそもそういう目的で乗る車ではないし、同じことは歴代の「7シリーズ」についても言える。「i7 xDrive60」は、ハイスペックにしてラグジュアリーな、大人のセダンなのである。
外観については、BMWの他の一部モデルに関してもよく言われるように、好みが分かれるかもしれない。この車をどのライバル車とも別次元のものにしているのは、その内装だ。ただし、あらかじめ言っておくと、デジタルなものが苦手な人は他を探した方がいい。「i7 xDrive60」の室内空間は、まさにその方向を極めたものだからだ。
ドライバーの前方に配置されているのは、メーターパネルとインフォテインメント用ディスプレイを一体化させた大型のガラスパネル(かなり大きくて、目の前に座ると結構な迫力だ)。オプションでリアシートにエンターテインメントシステムを追加すれば、車内のデジタル感はさらに増す。その格納式スクリーンは特大の31.3インチだ。
「i7 xDrive60」は、このクラスのBEVでは標準的な101.7kWhのリチウムイオン電池を搭載。アメリカ各地にある充電スポット「エレクトリファイ・アメリカ」の急速充電網につなげば、わずか10分ほどで約130km分の充電を完了する。航続距離は最長512kmと、トップクラスに比べるとやや見劣りするものの、BMWはそれを2つの点で補っている。一つは、「i7 xDrive60」の全ての新車を対象に、「エレクトリファイ・アメリカ」の充電スポットを3年間、無料・無制限で利用できる特典を付けていること。もう一つは世界的に供給不足が懸念されているレアアースを使わずにモーターを製造していることだ。後者はいずれ他のメーカーも倣う必要が出てくるだろう。価格は12万295ドル〜。bmwusa.com
オンもオフも自在のSUV
20年近く前、ランドローバーのSUV「レンジローバー・スポーツ」が登場した時、それはちょっと変わり種だった。スポーティーに走れるSUVというのは、当時なじみが薄かったのだ。それもそのはず、エンジニアたちにとっても、車高もかなり高ければ重量も重いSUVで、スーパーカー並みの加速性能や操作感を実現するのは未知の領域だったのである。
時は流れ、2023 年、「レンジローバー・スポーツ」は3代目に入り、プラグインハイブリッド車(PHEV)、マイルドハイブリッド車(MHEV)の2モデル、V型8気筒ツインターボエンジンのガソリン車という計4モデルが発表されている。今回取り上げるのは、その中からPHEVの2023年型「レンジローバー・スポーツ・P440eエレクトリック・ハイブリッド」だ。
パワートレインは3L直列6気筒ターボエンジンと最高出力105kWの電動モーターを組み合わせ、最高出力434馬力、最大トルク約840Nmを生み出す。電池の容量は31.8kWhで、電気だけでも約97kmの航続が可能だ。
「P440e」は全ての回転域でレスポンスが良く、実際、マドリード郊外でテストドライブを行った際は、V型8気筒ツインターボのパワフルな「P530」に引けを取らない爽快な走りを楽しめた。強大なトルクと、操舵性を高めるオール・ホイール・ステアリング、路面からの衝撃を吸収するエアサスペンションシステムのなせる技だ。
「レンジローバー・スポーツ」の最新シリーズには、独自の走行制御システム「テレ
イン・レスポンス」の最新バージョンが搭載されている。これは走行状況に合わせてエンジン、トランスミッションなどを自動調整するシステムで、「砂地」「雪・草地・砂利」「泥」などのモードが用意されている。とはいえほとんどの場所は、自動で最適な
設定に調整される「オート」でいけそうだ。
「P440e」はれっきとしたラグジュアリーSUVでもあり、それにふさわしい快適装備や最先端の機能を備えている(アクティブ・ノイズ・キャンセリング、ヒーター+クーラー+マッサージ機能付きのフロントシート、空気清浄システムなど)。ハンドル周りはセンタータッチスクリーンとセンターコンソール、デジタルインストルメントパネルが一体となっていて、すっきりした印象。
最後にまとめよう―― 2023年型「P440e」は、第2世代から大幅な進化を遂げた、ハイブリッド仕様の素晴らしいモデルである。価格は10万5675ドル〜。landrover.com
安全性も魅力の新フラッグシップ
ボルボはことさら宣伝することもなく、 完全電動化を淡々と進めている。既に8車種をBEVもしくはPHEVにしており、2030年には全車種をBEVにする予定だ。そんなボルボが初めて最初からBEVとして開発したのが、最新SUV「EX90 」(2024 年型)である。
「EX90」は既存の人気車種「XC90」の後継となる、新たなフラッグシップSUVとうたわれている。グループ会社の高級EVブランド、ポールスターが手掛ける「ポールスター3」とプラットホーム(車台)をはじめ基本構造の大部分を共有。違うのは「ポールスター3」が2列5シートなのに対して、「EX90」は3列7シート仕様であることだ。
「EX90」の納車開始は来年初めが予定されており、グレードは「ノーマル」と「パフォーマンス」の2つが用意される見込み。いずれも前後に電動モーターを搭載した全輪駆動で、「ノーマル」は最高出力402馬力、最大トルク770Nm。「パフォーマンス」では496馬力、最大トルク910Nmにアップする。どちらにしても余裕の走りができ
そうだ。
電池の容量は107kWhで航続距離は最長483km。急速充電器につなぐと、約30分で最高80 %の充電が完了する。「ポールスター3」と同じく、「EX90」も、外出先での電動アシスト自転車の充電や、電動工具への電力供給ができる双方向充電機能を搭載している。
内装はこれぞミニマリズムといった仕上がりだ。前面に備えられた14.5インチの大型センタータッチスクリーンからは、ほぼ全ての操作が可能。近年、新しい車からボタンやスイッチが消えてしまったと嘆く声もあるが、ボルボのタッチスクリーンは直感的に使えるため、ストレスフリーだ。あとはハンドルの奥に細長いメーターパネルと、ステアリングコラムにギアセレクターがあるだけ。頭上にパノラマガラスルーフがあるおかげで、車内に開放感があるのもいい。
安全性に関してボルボは引き続き業界をリードしている。「EX90 」には最先端の安全技術が採用されるはずだ。現段階で搭載が予定されているのは、ドライバーの注意散漫などを検知するカメラ、子どもやペットの置き去りを防ぐ車内レーダーシステム、自律走行に必須のハードウェア一式など。価格は未定だが、8万ドル未満になると見込まれている。volvocars.com