Marco Simone Golf & Country Club

ヨーロッパの絶景リンクスコースを訪ねる

BY Shaun Tolson

この夏のゴルフ旅行は定番のイギリスではなく、ヨーロッパ大陸の新しいコースを巡ってみよう。

年9月、全ゴルフ界の視線が西ヨーロッパに釘付けになる。イタリア、ローマ郊外ルコ・シモーネ・ゴルフ&カントリー・クラブ (golfmarcosimone.com)で、第44回「ライダーカップ」(アメリカ選抜とヨーロッパ選抜による男子ゴルフの対抗戦)が開催されるのだ。この権威ある大会がヨーロッパ大陸で開かれるのは、今年でまだ3回目。会場となる同クラブは大会のために、コースのレイアウトを一から設計・造成し直したという。イタリアのマルコ・シモーネ・ゴルフ&カントリー・クラブが束の間の注目を浴びているのを見て、ゴルフファンは、「優れたゴルフコースは何もイギリスだけにあるわけではない」ということに気付くかもしれない。まさに近年では、訪れる価値のある素晴らしいゴルフコースがヨーロッパ本土にいくつもオープンしている。

The Dunas Course

The Dunas Course / ポルトガル


今年の夏、リスボン南部の複合リゾート施設、テラス・ダ・コンポルタにザ・ドゥナス・コースcomporta.com)がオープンする。ポルトガル南西部の海沿いに位置し、ゴルフ場設計家のデヴィッド・マクレイ・キッドが設計を手掛けたこのゴルフコースは、実のところ10年ほど前にルートの造成と成形が済んでいた。ところが元のオーナーが財政難に陥ったことで棚上げとなり、2020年に新たなオーナーの下で建設が再開されたのだった。

ザ・ドゥナス・コースは、さまざまな点において新時代の原点回帰的なゴルフのあり方を象徴している。パー71、7168ヤードのコースはマクレイ・キッドがヨーロッパ本土で初めて手掛けたもので、「あらゆるレベルのゴルファーが楽しみながらプレーできる」という設計意図を見事に体現している。幅広の開放的なフェアウェイは、マクレイ・キッドいわく「ボールがころころ転がり、するする落ちる」地形を生かした起伏の多い形状。「ハンディキャップ18のプレーヤーでも、ここでは一度もボールを失わずにラウンドできます。ですがハンディキャップが一桁台のシングルプレーヤーなら、砂の風景の中に浮かび上がる細いラインを探してみてください。それがグリーンを狙うのに最適な角度を教えてくれるはずです」。

ベント芝のグリーンを除くザ・ドゥナス・コースの全プレーエリアにはフェスクという品種の芝が植えられており、硬くてボールが速く転がる、本場のリンクスさながらのコースを体験できる。フェスク芝を張ったゴルフコースは南ヨーロッパにはザ・ドゥナス・コース以外になく、それにはポルトガル沿岸の温暖な気候も関係しているという。「ボールがよく弾んで転がるこのコースでは、ゴルフの楽しみ方も多面的になります。ここではゴルフはもはや、ボールをただ空中に飛ばすだけのゲームではないのです」。

Costa Navarino

Costa Navarino / ギリシャ

ギリシャ南部の海沿いにある広大な複合リゾート地区、コスタ・ナヴァリノcostanavarino.com)に新設された2つのゴルフコース。その攻略の肝は、「どこで、どのようにショットを打つか」──つまり入念なコースマネジメントにある。リゾートには最長13kmの18ホールコースが4つあり、中でも2022年2月にオープンしたこの2コースは、マスターズ覇者、ホセ・マリア・オラサバルがレイアウトを設計したことで注目されている。ナヴァリノ湾を見下ろす両コースの総面積は約138ha(ヘクタール)。オラサバルは言う。「コースの一つ“Olympic Academy Golf Course”では、息をのむような海の絶景が望めます。一方、“Hills Course”は丘陵地の谷間にあり、また異なる自然美が楽しめます」。

全長6945ヤードの「Olympic Academy Golf Course」は、飛距離よりも正確さが問われるコースだ。プロツアー大会の開催を見越して造られており、平均的なスコアのプレーヤーは相当手こずらされるだろう(ただし、コースの随所に設けられた一見難しそうなバンカーは案外深くない)。特に後半9ホールは崖の端でのプレーになるため、海風次第でコースの難易度はさらに上がる。

最長6836ヤードの「Hills Course」では、各ホールの戦略をしっかり立て、それを忠実に実行した者が報われる。こちらはリゾートの東側にあり、オリーブの古木の林や古代の岩壁、切り立った渓谷など、この地方を象徴する風景を楽しみながらプレーできる。

Bernardus Golf

Bernardus Golf / オランダ

オランダ南部の小村、クロムボイルトを車で走っていると、集落のあちこちを網の目のように結ぶ石畳の通りが現れる。ここは夜になると今もまだ通りにガス灯が灯る界隈だ。そこからさらに細い道を進むと、5月末にダッチオープン(冠大会名:KLMオープン)が開かれるゴルフクラブ、バーナーダス・ゴルフbernardusgolf.com)にたどり着く。

このクラブの目玉は、スコットランドのキングスバーンズ・ゴルフ・リンクスの設計で知られるゴルフ場設計家、カイル・フィリップスが手掛けたヒースランドスタイル(イギリス内陸部に見られる荒野を模した環境)のゴルフコースだ。ごつごつしたエッジのバンカーが点在し、夏にはひょろりと長い自生のフェスク芝に覆われるコースは自然美に富み、歴史の浅さを全く感じさせない。加えてフィリップスはコースの競技性を高めるためにフェアウェイバンカーを多用する一方で、この土地本来の砂地の特徴も巧みに利用し、印象的な陰影や質感、勾配をコース上に作り出している。

このようにタイムレスな魅力を持つ現代的なゴルフコースが人気のバーナーダス・ゴルフだが、それに加えて、施設の充実度でも高い評価を得ている。敷地内に最先端の装備を備えたゴルフ練習施設からモダンなロッジ、ミシュラン星付きレストランまで併設し、古いヨーロッパの歴史が息づく地域に現代の利便性を加えている。フィリップスは言う。「歴史的な景観と最先端のスタイルの融合が、このクラブを唯一無二の場所にしているのです」。

Les Bordes Golf Club

Les Bordes Golf Club / フランス

パリから車で約2時間ほどの場所にある会員制ゴルフクラブ、レ・ボルド・ゴルフ・クラブlesbordesgolfclub.com)。その最新ゴルフコースは、“違い”をコンセプトに据えている。設計者のギル・ハンスはクラブハウスから西に800mほど離れた一画に、7391ヤードの素晴らしいゴルフコースを造り上げた。しかし、「New Course」というコース名は、その設計上の特徴と噛み合っていない印象を受ける。「New Course」の美しさや、コースレイアウトがもたらすプレー体験に“新しさ”は見られない。それどころか、ハンスはあえて砂質の土地にルートを造り、フェアウェイやグリーンをその中に配している。今日のクラシックなゴルフコースがそうであるように、「New Course」もまた、19世紀末~20世紀初頭に造られた伝統的なゴルフコースの再現を目指した設計となっているのだ。

それは、1980年代にロバート・ボン・ヘギーが同クラブの「Old Course」を設計・建設した方法とは明らかに異なる。「Old Course」は沼しょうたくち沢地に似た一画に造られ、フェアウェイとグリーンも沼や湖の間に配されている。「沼沢地にある“Old Course”では、ボールは地面を転がっているよりも空中を飛んでいることが多く、 逆に“New Course”では、ボールは芝の上を転がっていることが多いのです」。そう語るのは同クラブの部長、ジャック・ローズだ。「要するに、ここには特徴の違う2つの素晴らしいゴルフコースがあるわけです」。

レ・ボルド・ゴルフ・クラブはプライベートクラブだが、新会員を積極的に受け入れている。入会するには審査を通る必要があるが、それはあくまでもゴルフの経験が豊富でゲームのマナーを知っている人に会員になってもらいたいためだ(とはいえ、ハンディキャップが一桁である必要はない)。


Castiglion del Bosco

Castiglion del Bosco / イタリア

フィレンツェの約80km南、トスカーナの丘陵地帯にある、イタリア唯一のプライベートゴルフクラブ、カスティリオン・デル・ボスコgolf.castigliondelbosco.com)では創業以来、会員しかプレーできなかった。しかし先頃、ラグジュアリーホテルのローズウッド・カスティリオン・デル・ボスコと提携。同ホテルの宿泊パッケージ「Tuscany Golf Experience」を利用すれば、滞在中に限り、会員でなくともこのプライベートゴルフクラブでのプレーが楽しめるようになった。

故トム・ワイスコフが設計した全18ホールのコースは、この地の丘や谷が描くなだらかな輪郭に溶け込むように造られており、実際よりもずっと歴史があるように見える。ワイスコフも語っていたことだが、この広大な敷地は少なくとも500年にわたって放置されていたため、コース設計には気の遠くなるほどの労力を要した。しかしワイスコフはその景観に目を向け、イタリアの田園地帯ならではの美しさを設計に取り入れた。ワイスコフいわく「このゴルフコースの一番の売りはコースの周囲にあるもの、つまり遠くまで見晴らせる眺望です高度も変化に富んでいます。こうした特徴をレイアウトに組み込めば、素晴らしくドラマチックなコースになると思ったのです。ここでは谷底で、また山の尾根でプレーすることになります」。

ローマ郊外で開催される来たる「ライダーカップ」では、手に汗握るゴルフのドラマが繰り広げられるに違いない。そしてそこから車で約3時間のこのゴルフクラブに足を延ばせば、本格的なコースでのラウンドとラグジュアリーホテルでの滞在という、プラスアルファのお楽しみも得られる。「ここで過ごす時間をどうぞ楽しみにしていてください」、そうワイスコフは言った。「ここは私が訪ねたことのあるコースの中でも、とりわけ個性的で、そして美しい場所なのです」。