海に浮かぶ邸宅
海の上でスタイリッシュに暮らす――そんな夢を叶えてくれる豪華クルーザー6隻を紹介しよう。
モトパンフィロ
造船:ベネッティ(benettiyachts.it)
外装設計:フランチェスコ・ストルグリア(francescostrugliadesign.it)
外甲板・内装設計:ラッツァリーニ・ピカリング建築事務所(lazzarinipickering.com)
全長:37メートル
収容人数:10名+乗員6名
「モトパンフィロ」号といえば、1960~70年代にモナコのレーニエ大公やイギリスのミュージシャン、デビッド・ボウイなど、世界を飛び回る著名人らが所有し、人気を集めたクルーザーだ。「マホガニー材や白漆など、落ち着いた色調の建材で仕上げられた、ミニマルかつ洗練された船でした」。「モトパンフィロ」号のリノベーションを担当したカール・ピカリングはそう振り返る。この歴史的遺産を現代に蘇らせるに当たっては、「より軽量な木材を採用し、鏡など現代的な要素と組み合わせた」という。また、「元の船はマホガニー材の茶色い壁と白い天井という組み合わせでしたが、新しい内装ではこの関係を逆にしています」(上写真)。さらに、船室の壁は船体の形に沿った曲線的な作りにし、陸上にある住宅の直線的な室内とは対照的な、海とのつながりを強く感じさせる空間に仕上げた。
フロレンティア
造船:ロッシナビ(rossinavi.it)
外装設計:ステュディオ・ヴァフィアディス(vafiadis.com)
内装設計:A++(a2plus.green)
全長:52メートル
収容人数:12人+乗員11人
カルロ・コロンボは一流ブランドの家具やインテリア製品を数多く生み出してきた、イタリアデザイン界の巨匠だ。そのコロンボが手掛けた「フロレンティア」号の内装には、高級家具ブランドFlexformやGiorgettiの特注家具が贅沢に配されている。コロンボが率いる建築事務所A++の設計チームは、この船の内装を“包み込まれるような、モノクロームの空間”として構想した。コロンボいわく「本物のイタリアンスタイルには、時間を超越する美しさがあります。私たちは曲線的な家具と、上質な素材、淡く温かみのある色合いを通して、それを船内に作り出しました」。使われているのはカナレットウォールナット材や大理石、レザーなど、イタリアンスタイルに欠かせない素材だ。プレジデンシャルスイートの天井にはイタリアの熟練職人が作った照明があるが、その大きなシェードには外の海が映り込み、眠りに落ちる瞬間まで海を感じられるようになっている。
「エクセレンス」号
造船:アベキング&ラスムッセン(abeking.com)
外装設計:ウィンチ・デザイン(winchdesign.com)
内装設計:リエーグル(studioliaigre.com)
全長:80メートル
収容人数:14人+乗員20人
1910~1930年代のアールデコ全盛期、人々は流線型デザインの虜になった。このクルーザーのオーナーもその一人である。設計を手掛けたイグナシオ・オリバ=ベレスは、その作業をこう振り返る。「オーナーはアールデコ調の内装をご希望でした。また、素晴らしい自動車コレクションをお持ちで、それにちなんだディテールを加えてほしいというリクエストもいただきました。そのため船内には自動車をモチーフとしたデザインが多数あります。例えば、ラウンジに置いたソファの背もたれはキャデラックの座席をヒントにしていますし、共用トイレは全て、ブガッティの高級車『タイプ41』などのクラシックカーをイメージしたものです」。
「グランデ・トライデック」号
造船:アジムット・ヨット(azimutyachts.com)
外装設計:アルベルト・マンチーニ(amyachtdesign.com)
内装設計:アキッレ・サルバーニ(achillesalvagni.com)
全長:38.22メートル
収容人数:10人+乗員7人
「グランデ・トライデック」号には、船尾に設けられた特別デッキや従来の概念を覆すレイアウトなど、数々の画期的な意匠が施されている。内装を手掛けた建築家のアキッレ・サルバーニは、メインサロンにラウンジエリアとダイニングエリアを置くという定番のレイアウトはやめ、ダイニングルームを独立させて上部デッキに配した。それによりメインサロンは贅沢な広さとなり、開放感のある空間が誕生した。サルバーニいわく「壁に丸みを持たせて、天井や床とシームレスにつなげました。柔らかな繭に包まれたような雰囲気になったのは、直角部分が少ないからです」。壁だけでなく家具も曲線的なデザインで、さらにクレーターを思わせるデザインの天井灯も、オーナー用船室のバスタブも楕円形だ。
「ニョルド」号
造船:マイヤー・ヴェルフト(meyerwerft.de)
外装設計:エスペン・オイノ(espenoeino.com)
内装設計:複数企業
全長:289メートル
戸数:117戸(専有面積約149~836平方メートル)
2025年竣工予定の分譲マンション型クルーズ船「ニョルド」号では、地上の高級リゾートマンションと同じように充実した施設とサービスを利用できる。付帯施設はレストラン6軒、スパ、映画館、ダイビングセンター、マリーナなど。また、水上バイクやボートなどの遊具類、ヘリコプター2機も積載している。「ニョルド」号を企画開発したオーシャン・レジデンス・デベロップメントのアラン・グルーバーは言う。「ご購入者の詳細は社外秘ですが、旅や冒険がお好きで、教養があり、学びや新しい発見を求める好奇心旺盛な方ばかりです」。権利購入(916万5000ドル~)の勧誘を受けた幸運な人は、世界各地の著名デザイナー9人の中から1人を選び、内装を任せることができる。「ニョルド号の特筆すべき点は、海洋科学の研究に取り組んでいることです」とグルーバーは言う。「船内に設備の整った海洋学・大気学研究室を設ける予定です。ここに住まわれる方は贅沢な空間とサービスを享受しながら、学術的な貢献もできるのです」。
「SL44」号
造船:サンロレンツォ(sanlorenzoyacht.com)
外装設計:ズッコン・インターナショナル・プロジェクト(zucconinternationalproject.com)
内装設計:リエーグル(studioliaigre.com)
全長:44.5メートル
収容人数:10人+乗員10人
フランスのインテリアデザイン事務所、リエーグルでヨット設計部門を率いるギヨーム・ロランは、この船の内装を手掛けるに当たって、フランスの洗練とアジアの美意識を“人々が心に抱くイメージを基に”融合させたと語る。例えば、円形の戸口というのはいかにもアジア風のディテールだが、フレームの底部をわずかにカーブさせればそれは、「自身の文化と記憶から生まれたデザイン」となる。このように実際のパーツと潜在意識にあるイメージとを融合させるには、まず「闇と光というような、対照的に表現される2つの文化の対話」を作り出し、それぞれの美しさを巧みに引き出す作業が必要になる。アジア的な要素として配されたのは、盆栽を思わせるテラリウムや赤色、そしてフランス的な要素としては「パリの貴族の館にあるような」オーク材のパネルなど。そうしたディテールの相乗効果で、立体感のある官能的な空間が生まれた。