美とテクノロジーの融合

ドゥカティのバイクを目の前にすると、誰もが触ってみたいという気持ちを抑え切れなくなる。指でボディーラインをなぞってみたい。シートにまたがってみたい。一体になりたい──。ドゥカティのデザイン部門を統括するアンドレア・フェラレージは言う。「ドゥカティはただ美しいだけでなく、官能的なのです。触れたい、またがりたいと思っていただけたとしたら、それこそ私たちの本望です」。

ドゥカティはよく「モーターサイクル界のフェラーリ」と称される。もちろんこれは一種の褒め言葉であるが、語弊があるのも確かだ。ドゥカティ・モーター・ホールディングは実のところランボルギーニの傘下にあり、そのランボルギーニはアウディの子会社、そのアウディはフォルクスワーゲン（VW）グループの一社という関係にあるからだ。しかしこれは、ドゥカティがポルシェやベントレーも名を連ねるVWグループのテクノロジーの恩恵にあずかれるという意味でもある。これにドゥカティならではの最先端の設計・製造プロセスが加わることで、信頼性が高く、官能的で、芸術作品のような２輪車が出来上がるというわけだ。

機能的でしかも美しいマシンを生み出すために、ドゥカティのデザイナーは設計・製造プロセスの最初の段階からエンジニアと綿密に連携する。フェラレージは、ドゥカティが作るバイクはオーセンティックで官能的、そしてひと目で「ドゥカティ」と分かるものでなければならないという考えの信奉者だ。昨年フルモデルチェンジした「モンスター」に続き、今年発売された新型オフロードバイク「デザートX」も、ドゥカティのデザイナーとエンジニアがスタイリングとパフォーマンスでそれぞれの目標を達成しながら作り上げた珠玉の一台だ。

Ducati オフロードバイク「デザートX」

「デザートX」はシート高875ミリで、ブロック状の燃料タンクや、やや丸みを帯びたボディーラインが昔の「パリ・ダカールラリー」で使用されたマシンを彷彿とさせる。ただ、ヘッドライトにはLEDが採用され、それがモダンな、フューチャリスティックとすら言えそうな趣も添える。ドゥカティの歴代アドベンチャーバイクは基本的にストリートバイクのシャシーで、それをオフロードでも走行できるように調整していた。それに対して「デザートX」は初めからオフロード車として設計され、ストリート走行用の機能をいくつか追加した仕様になっている。

「デザートX」はBluetooth接続が可能な他、アップグレードされたコーナリングABS、リーンアングル（傾斜角）センサーを搭載。ライディングモードは６種類から選べ、２〜６速のギアをクラッチ操作せずにチェンジできるクイックシフターも標準装備している。

Ducati 「モンスター」

ドゥカティがデザインを考案する際には、ブランドの歴史と新しいテクノロジーのどちらをも重視することが求められる。フェラレージも言うように、ドゥカティの伝統に忠実なスタイリングでありながら、パフォーマンスをさらに向上させる方向で両者を調和させなければならない。これは「モンスター」のデザイン刷新でも苦心した点だったという。新型「モンスター」ではスチール製トレリスフレームの代わりにアルミ製フロントフレームを採用し、「821」モデルと比べて4.5キログラムの軽量化を実現。フレームと車体全体が引き締まり、より俊敏に走れるようになった。ただ、従来型「モンスター」を所有するドゥカティスタの間では新デザインが奇異に映った人も多かったらしく、オンラインフォーラムでは毀誉褒貶が飛び交った。フェラレージは、伝統を重んじる人々の怒りに理解を示しながらも、デザインを改善すべきときにはそれを行う必要があると話す。彼にとっては、たとえ大きな反発を招くとしても車体を軽量化できるのであれば、デザインの変更は断行すべきものだった。

ドゥカティのデザイナーにとって今後はさらに、サステナビリティーへの配慮も課題になる。イタリアの法律ではバイクの製造にもリサイクル素材の利用が義務付けられており、ドゥカティはカウルなどのボディーパーツに再生プラスチックを使用する取り組みを進めている。また、エンジニアはレースでの経験を空力性能の改良や排出ガスの削減、燃費の向上に役立たせており、そうした成果を市販車にも取り入れることで、より環境にやさしいバイクを生み出している。

フェラレージは、ドゥカティを買う人はただ乗るためだけに買うのではないと言う。ドゥカティのバイクは、高速で走る芸術作品であり、所有者に優越感を与えてくれるものでもあるのだ。だからこそドゥカティのデザイナーとエンジニアは、乗ってスリリングなだけでなく、美しいマシンを作ることが使命になる。フェラレージが目指すゴールはシンプルだ。目隠しされていても、エンジンを切った状態でも、シートにまたがればドゥカティだと分かる──そんなバイクを作ることである。 ducati.com