心と体を癒やす冬の旅先
テイラー・リバー・ロッジ
アメリカ、コロラド州のテイラー・リバー・ロッジ(elevenexperience.com)は、人里離れた山あいにあるこぢんまりとしたウエルネス系ロッジだ。瞑想関連のポッドキャストなどでは「静寂の時間」という言葉をうんざりするほど耳にするが、今の時代、日常生活でそれを味わえる場所はそうそうない。しかしここではまさに、その"静寂"という贅沢を存分に味わえる。
テイラー・リバー・ロッジは数年前、“真冬のウエルネス”を前面に打ち出す方針を決定した。「ここは人里離れた静かな環境にあります。自然とつながることで血圧が下がり、忙しさで乱れがちな心が静まります」。そう説明するのは、同社のウエルネスプログラム責任者、ケイス・ノートンだ。「冬ごもり的な心地良さ、そしてと長い夜の静寂が、この施設の魅力です。ゲストの方々にはそんな環境の中で自身と向き合い、日常生活に戻ってからも元気に過ごせる活力を養っていただきたいのです」。
ノートンはさらに続ける。「私自身、体の声に耳を傾ける必要があると、よく思うのです。例えば冬ならば、冬眠が近付いた動物のようにスローダウンして、穏やかに過ごすのが自然です。寒い季節、体内の各器官は体温を上げるために全力で働いています。当ロッジで味わえる深い休息は、そんな“冬バテ”した体に活力を与えるものです」。
体の声に耳を傾けるという気付きがひとつのきっかけになり、それまで暖かい季節限定で営業していたテイラー・リバー・ロッジは、新型コロナウイルス流行初期で特に緊張感の高かった2020年に、冬の営業を始めることにした。夏場なら宿泊客はハイキングやロッククライミング、フライフィッシングを楽しめるが、冬場になるとロッジ界隈にはスキー場もなく、アクティビティーが限られる。しかしここには、美しい自然と静寂があった。敷地内の6棟のキャビンと2棟のファミリーキャビンに宿泊するゲストは毎朝、外に出ると木々の間を吹き抜ける冷たい風や、近くを流れるガニソン川の水音、あるいは雪が降った後の静けさに包まれ、喧騒とは無縁の場所にいることに気付く。
こうした心を癒やす大自然とのつながりは、ロッジ全体のデザインにも表れている。木造の建物が並ぶ敷地内は、夜になると真っ白な雪に星空が映り、幻想的な世界になる。室内にはモダンな織物、動物のはく製、再生木材製のコーヒーテーブル、背表紙の色調をそろえた本や置物が並ぶ本棚などが配され、くつろげる雰囲気だ。そしてその多くは地元で調達されたものである。
新しくできたバスハウスにあるのは、塩水プール、温浴槽、スチームルーム、サウナルームなど。天井は見上げるほど高く、自然光がたっぷり差し込む大きな窓の外にはロッキー山脈の雄大な景色が広がる。温熱療法プールを囲む温熱石材タイル敷きのフロアで提供されるのは、雪景色を見ながら行う瞑想やヨガなどのクラスだ。この他、スパでは雪の冷水浴や温熱セラピー、冬季限定のマッサージ「Fire and Ice 」(温めた河原の石と緊張をほぐす施術で免疫力を高め、毒素を流す)などのヒーリングメニューが用意されている。
少人数制ホテルのため、スパでのトリートメントから森林浴体験まで、ゲスト一人ひとりの要望にきめ細かく応じてくれるのもうれしい。常緑樹の林をスノーシューで歩く森林浴では、シカやイタチが雪に残した足跡が見付けられるだろう。滞在中の食事は、季節の食材を使った日替わりメニューとなる。メニューに載っていなくても、こういう場所ではめったに出されないベトナム風サンドイッチのバインミーなど、好きな料理をリクエストすることも可能だ。
トラウトベック
東海岸に目を移すと、ニューヨーク州のウエルネス系ロッジ、トラウトベック(troutbeck. com)も冬ごもり感覚の上質な時間を、テイラー・リバー・ロッジとはまた異なるスタイルで提供している。ハドソン渓谷とバークシャー山脈が交差する場所にある同ロッジは2016年にオーナーが変わったが、長い歴史が刻んだ魅力的なエッセンスが今もそこここに残っている。例えば1916年に造られた庭園は、秋には美しい紅葉で染まり、冬には夢のような雪景色となる。
トラウトベックは新型コロナの影響でしばらく閉鎖していたが、2020年にウエルネス志向の宿泊施設として、さまざまなメニューをそろえて再オープンした。そんな新たなウエルネスプログラムの拠点となるのが、The Bar ns(納屋)と呼ばれる2棟の建物だ。木の外壁と板葺き屋根のこの建物は、ハドソン川にかかっていた取り壊し前の旧タッパン・ジー橋に使われていた木材で建てられている。
大きな窓を開けると、室内は太陽の光と新鮮な空気で満ちる。The Barnsで提供されるのは、ハタヨガやリストラティブヨガ、ピラティス、キネソマ(ヒーリング効果のあるダンス)など、地元の人気インストラクターによる毎日のクラスと各種トリートメント――マッサージ、赤外線サウナやパイン(松材)サウナ、ソマティック・トラウマ・セラピー(エクササイズやマッサージでトラウマを癒やす療法)などだ。
トラウトベックでは屋内にいても、自然とのつながりを感じられる。ウエルネスマネージャーのジョセフ・ベンティボリオは言う。「冬にはフィットネススタジオの窓の外にある野草園に雪が積もります。雪が降った後の静寂に包まれたスタジオで瞑想やヨガをすれば、穏やかな気持ちで自分を見つめ直すことができるでしょう」。
最近、宿泊棟の一つ、Benton Houseの客室が改装されたが、ここも敷地内の他の棟と同じように自然とのつながりを感じられる空間だ。ほとんどの客室に暖炉があり、外の景色を見ながらくつろげるポーチがある。また、メイン棟にある図書室には前オーナー夫妻が残した蔵書が並び、冬ごもりの良いお供となる。
トラウトベックでの冬の過ごし方はさまざまだと、ベンティボリオは言う。「午後に川沿いをスノーシューで散策して、常緑樹の高い枝の間を舞い飛ぶ鳥を観察するのも良いですし、瞑想をしながら、ただ窓の外を眺めるのも良いでしょう」。
ザ・チャトワル・ロッジ&ワイルドフラワー・ファームズ・オーベルジュ・リゾート・コレクション
最後に、こうした“冬のウエルネス”という、近年の新たなトレンドを取り入れている宿泊施設をさらに2つ紹介しよう。1つ目は、ニューヨーク州の私有自然保護地区内にオープンしたザ・チャトワル・ロッジ(thechatwallodge.com)で、ログキャビン風のシックな客室が11室と、地元の新鮮な食材を使った料理を提供するレストランがある。2つ目はこの秋、同ニューヨーク州のハドソン渓谷にオープンしたワイルドフラワー・ファームズ・オーベルジュ・リゾート・コレクション(aubergeresorts.com)で、滞在中はトレッキングや陶芸、敷地内の農園で取れた旬の食材を使った料理などが楽しめる。