青い氷の洞窟へ
スノービーチ
ヘリコプターのプロペラが地上に吹き付ける強い風は、氷原に波形の紋もんを作り、あたかも波打つ白い海を思わせる。カナダ、ブリティッシュコロンビア州のカナディアンロッキー（標高約1950メートル）に広がる無垢の大地、ペンバートン氷原。大地を覆う氷床の上には雪が深く積もり、歩くと膝まで沈んでしまうほどだ。しかしその先には、ヘリコプターが着陸できるほどの大きさの固い地面がある。正式な名前はないが、通称は「スノービーチ」。数千年前に山の頂上から氷河が滑り落ちてできた、大自然の中庭のような場所である。近年発見されたばかりのスノービーチは注目を集めているが、ここがペンバートン氷原を訪れる目的ではない。ほんの数メートル先に暗く開いた穴――この氷の洞窟こそ、ペンバートン氷原のハイライトだ。
贅沢な自然体験ツアーを専門に手掛けるツアー代理店、Head-Line Mountain Holidays（headlinemountainholidays.com）はシャングリラ・バンクーバー（shangri-la.com）と提携し、宿泊客向けにペンバートン氷原ツアーを提供している。そしてスノーモービルやレジャー用の雪上車「Sno-Cat」、グルメフードとシャンパンが用意されたスノービーチに、ヘリコプターでツアー参加者を運ぶ。
氷の洞窟は、氷が最も安定している冬場に訪れるのがベストだ。洞窟の入り口は年ごとに位置を変えるものだが、気候変動がその変化をより顕著にしている。洞窟内では穴を下って行く箇所の難易度が高く、シャベルで掘って作られた梯子のような階段を、約12メートル下まで下って行かなければならない。しかし深く下りれば下りるほど白一色だった氷河が青みを帯び、まさに“青い世界の住人になる（Living in the Blue）”。ちなみに、氷河が青く見える理由は、氷を形作る水に青い光を通す性質があるためだと言われている。
鍾乳石の壁を抜けると、突然別世界が現れる。足元の青い氷は消え、石が転がった、茶色い地面がむき出しの場所になる。ガイドが指差す先にあるのは約８メートルもの垂直氷――が温暖化により溶けてしまった跡だ。気候変動は洞窟内にも影響を与えており、同ツアーではガイドがその変化について参加者に説明してくれる。なお、Head-Line Mountain Holidaysでは収益の３％をサイモン・フレーザー大学と共同で実施している氷冠（山頂部を覆う氷河）の研究に提供している。氷河は永遠に存在するもののように見えるが、これらの体験が永遠にできるとは限らない。ツアー参加料金は１人1395ドル～。shangri-la.com
“氷の洞窟”トリビア
世界最大の氷の洞窟はオーストリアのザルツブルクから約24キロの町、ヴェルフェン近郊にあるアイスリーゼンヴェルト（ドイツ語で「氷の巨大な世界」の意味）だ。全長約32キロで、入り口から約１キロが一般に公開されており、自然が創造した見事な“氷の彫刻”が見られる。1879年に発見されたこの洞窟について、科学者は5000万～１億年前に形成されたと推定している。 eisriesenwelt.at
氷の洞窟が最も多い国はアイスランドだ。名前が付けられた氷河は269カ所。氷の洞窟は自然のものもあれば、人工のものもある。中でも旅行者の一番人気はヴァトナヨークル国立公園にあるラングヨークル氷河の人工洞窟で、内部に５つの部屋が造られており、一年中見学できる。 guidetoiceland.is; adventures.is
アメリカで最も見応えのある氷の洞窟はアラスカにある。中でもアンカレッジ郊外のマタヌスカ氷河とスペンサー氷河は、最もアクセスしやすいスポットだ。体力に自信があるなら、州都ジュノーのメンデンホール氷河がお薦め。ただしカヤックに乗り、氷河を渡ってようやくたどり着ける場所にあるため、地元のガイドと一緒に訪れよう。