原始の海底探検
地球の海の80%以上は人類未到の場所である――都会の単調な暮らしから離れ、未知の発見にあふれる海底世界を探検しよう。この特集で紹介するのは、知る人ぞ知る辺境のダイビングスポットだ。事前に身に付けておきたい技能や知識、アクセス方法、お薦めの宿泊先なども併せてチェックしておこう。
プアーナイツ諸島(ニュージーランド)
ニュージーランド・北島の北部沿岸にある町、トゥトゥカカ。プアーナイツ諸島はそこから24キロ沖合にある海洋保護区で、60カ所以上のダイビングスポットが点在している。2つの大きな島(タウヒティラヒとアオランギ)と10の小島が10キロほどの範囲にひしめき、水上にそびえる断崖が壮観な景色を生み出している。
温帯と熱帯の海域の間に位置することから、水中ではブルーマオマオや好奇心旺盛なスズメダイの群れ、サドルテールグルーパーなど多種多様な魚が見られ、海底には海綿やウミトサカが花畑のように広がっている。フランスの著名海洋学者ジャック=イヴ・クストーがプアーナイツ諸島を世界10大ダイビングスポットの一つに選んだのも、きっとこうした美しい海中世界を目にしたからだろう。
アクセス
トゥトゥカカまでは、北島のオークランドから車で約3時間。
宿泊
客室22室のホテル、ザ・ロッジ・アット・カウリ・クリフス(1700ドル~。robertsonlodges.com)は、高級リゾートホテルグループ「ロバートソン・ロッジ」が運営する3つのホテルの1つ。ホテルが立つ崖の上から、水平線の彼方まで続く静寂の海が広がる。オールインクルーシブ制。
ダイビング情報
ダイビングショップのDive! Tutukaka(diving.co.nz)は、器材の豊富なラインアップと、知識豊富なスタッフが自慢。ボートを貸し切れば、出発時間やダイビングスポットなどを自由に選べる。さまざまな食事制限にも対応したカスタムメードのランチや軽食もお楽しみの一つ。
ウシュアイア(アルゼンチン)
南米最南端のティエラデルフエゴ諸島に位置するウシュアイアは、“世界の果て”の呼び名を誇る町だ。1520年にポルトガルの探検家、フェルディナンド・マゼランによって初めて海図に記され、現在は南極探検の出発拠点としてしばしば利用されている。
マルティアル山脈に囲まれた浅い水域で行うダイビングでは、海水温が常に8℃を下回るため、PADI(世界最大のダイビング指導機関)の「ドライスーツ・ダイバー」認定(ドライスーツでダイビングをする際の安全スキルの習得認定)を受け、安全を確保する必要がある。海水は透明度が高く、多様な海洋生物をクリアに観察できる。うっそうと茂る海藻の森に棲むのは、色鮮やかなウミウシや巨大な水生無脊椎動物など。亜南極の海で採れるダービリア昆布などの海藻類は地元ではシチューに使われるが、美食家にとって最もうれしい海の幸はイバラガニだ。
アクセス
首都、ブエノスアイレスから飛行機で3時間。
宿泊と食事
セーロアラルケン自然保護区内の丘の上に立つアラクル・ウシュアイア・リゾート&スパ(300ドル~。arakur.com)は、117客室のホテル。屋外に設置された2つのジェットバスから、ウシュアイアの町を一望する素晴らしい景色が楽しめる。イバラガニやウニが食べられるシーフード料理店、Restoran Volverや繁華街に出かけるなら、ホテルのシャトルバスが便利。
ダイビング情報
最適な時期は4、5月と7~10月で、クジラなど多様な海生哺乳類や甲殻類が見られる。また、食物が豊富な深い水域にはクジラ、イルカが集まる。ドライスーツの着用が必須のため、事前にPADI(129ドル~。padi.com)の講習で「ドライスーツ・ダイバー」認定を受けておこう。ウシュアイアでは地元のダイビングスクール、Beagle Buceos(beaglebuceos.com)が、ボートツアーや器材のレンタル、ガイドの手配、送迎を行っている。
マスカット(オマーン)
アラブ最古の独立国であるオマーンは、南はイエメン、北はアラブ首長国連邦、西はサウジアラビアと国境を接している。全長約3200キロの海岸線はアラビア海とオマーン湾に面しており、大部分は険しい地形だ。首都マスカットが面する海域には急こう配の大陸棚があるため、素晴らしいダイビング体験ができる。
マスカットから船で北に約40分のデイマニヤト諸島は磯浜が広がる小さな群島で、オマーンで初めて海洋保護区に指定された場所だ。ダイビングスポットは12カ所あり、オマーンアネモネフィッシュやオマーンバタフライフィッシュ、オマーンカトルフィッシュといった固有種や、ヒブダイなどの多様な海洋生物が生息している。いずれも人間を怖がらず、興味津々の様子で泳いでいる。
アクセス
カタールの首都ドーハ、もしくはアラブ首長国連邦のドバイから、飛行機で1時間半。
宿泊と食事
オマーン湾を眼下に臨む180客室のホテル、シャングリラ・アル・フスン(325ドル~。shangri-la.com)は広さといい規模といい、アラビア語で“城”を意味する“アル・フスン”の名にふさわしい。静かな環境を提供するため、宿泊には16歳以上の年齢制限を設けている。併設のスパ、Luban Spaでは、地元産の生薬・ニュウコウジュから作られる乳香を使ったトリートメントを提供。1階のレストランMahhara Beach Barでは、海の幸の直火焼きが楽しめる。
ダイビング情報
地元のダイビングショップMolaMola DivingCenter(molamoladivingcenter.com)が、器材から保護区の入場料の支払いまで、必要なものを全て手配してくれる。
イースター島(チリ)
イースター島はまさに、究極の辺境地だ。最も近い集落があるピトケアン島(人口50人前後)までの直線距離は約2000キロで、ニューヨーク-マイアミ間に相当する。現地語で「ラパ・ヌイ」という名のこの島に広がるのは、溶岩石と草原が織りなす原始の自然。島を一周する主要道2本のうち1本は、所々未舗装のままだ。なお、丘のように見える地面の隆起は火山の名残である。ポリネシア人が数百年前に作ったモアイ像で知られるイースター島には、悠久の歴史が息づいている。
ダイビングスポットの大半は島の西岸にあり、溶岩石の洞窟やアーチ、トンネルをサンゴ礁が彩り、海洋生物であふれている。たった一度のダイビングでもハコフグや、青い斑点が特徴のソウシハギ、美しいモザイク模様のウツボ、ガラパゴスザメ、細長いヘラヤガラに遭遇できる可能性大。
港からボートで約4分の沖合には、海底にモアイ像が沈んでいる。この像の起源は話を聞く地元住民によって異なり、ハリウッド映画のセットとして造られたものとも、祖先に敬意を表するために設置されたものともされる。とはいえ海の生き物はそんなことは我関せずで、像に住み着いたウニやヒトデ、サンゴが唯一無二の景色を作り出している。
アクセス
チリの首都、サンティアゴから飛行機で5時間半。
宿泊と食事
ナヤラ・ハンガロア(510ドル~。nayarahangaroa.com)では、75客室全てにオーシャンビューのプライベートテラスがあり、室内に石や溶岩石を切り出して作ったベッドが配されている。滞在中は、ホテルが提供する多彩なガイド付きツアーに参加するもよし、四輪駆動バギー「Can-Am」をレンタルして島内を自由に走り回るもよし。ホテルから徒歩で約15分の場所には、海に面した藁葺き屋根のレストランTe Moanaがあり、地元産の魚介類とサツマイモをココナッツミルクとライムジュースでマリネした、島一番のセビーチェが食べられる。
ダイビング情報
1989年創業のMike Rapu Diving Center(mikerapu.cl)は、家族経営のダイビングショップ。島出身のオーナー、クリスティアン・ラプはダイブマスターでもあり、島のダイビングスポットと周辺状況に関する知識で右に出る者はいない。イースター島では器材の数が限られているため、マスクは自分に合ったものを持参しよう。ダイビングギアブランド、アクアラングのマスク「プラズマ」(129ドル~。us.aqualung.com)なら、フレームレスのパノラマビューが楽しめる。