Val Gardena

イタリアのドロミテで過ごす冬

ワールドカップを観戦し、世界最大のスキー場でスキー三昧――イタリア屈指の雪山リゾート、ドロミテで冬を満喫しよう。

By Larry Olmsted

スキーのワールドカップ

毎年12月、イタリアの美しい村、サンタクリスティーナのゲレンデに世界のトップスキーヤーが集結する。目指すのは、国際スキー連盟主催の「アルペンスキー・ワールドカップ」だ。この大会を生で観戦したことがない人はぜひ一度、現地に足を運んでみてほしい。

世界にはスポーツの聖地と呼ぶべき競技会場がいくつか存在するが、スキー競技のそれは、イタリアのドロミテ地方(イタリア語では“ドロミーティ”と発音する)にある「Saslong 」だろう。1970年に誕生したこのコースの全長は約3.2キロ、標高差は約760メートル。何より観客にとってうれしいのは、競技種目「滑降」と「スーパー大回転」のゴールが村の中にあることだ。これはアルペンスキーのコースとしては非常に珍しく、競技を間近で見られる絶好のチャンスとなる。

ドロミテのメインスキーエリアは、ヴァルガルデーナとアルタバディアという隣接する2つの谷にまたがっている。ワールドカップが行われるサンタクリスティーナは、前者の谷にある村だ。そして「回転」と「大回転」の2競技は、後者にある急傾斜(最大斜度34.6度)のコース「Gran Risa」で行われる。実際、スキー競技を観るのにドロミテほど好条件の場所はない。ドロミテでは冬の初めにまとまった量の降雪があるため、毎年クリスマスの前週にワールドカップのアルペン4競技が開催される。この時期というのが、スキー休暇のピークには早いが、直前に迫ったクリスマスのかき入れ時に備え、村全体が準備万端でオープンしている(でもまだ混雑はしていない)という、何とも絶妙なタイミングなのである。

Alta Badia

ドロミテ・スーパースキー

何事も大きい方が良いわけではないが、ことスキーに関しては広さが行き先選びのキーポイントとなる。その意味において、地球上で最も大きいスキー場、ドロミテ・スーパースキーdolomitisuperski.com)はかなりの誘引力を持つ。ドロミテ・スーパースキーは厳密には15のスキー場に分かれているが、共通のリフト券1枚で大半の場所にスムーズに行き来でき、かつ面倒なバス移動などもないので、利用者はまずそのことを意識しない。スキー可能な面積は約1万2000ヘクタール(全米最大のスキー場の4倍以上)、標高差は約2400メートル以上。標識のあるコースが900本弱あり、その間を最新の暖房付きのチェアリフトやゴンドラ、トラムを備えた450基のリフトが結ぶ。さらに今年、ドロミテ・スーパースキーは人気のグローバルスキーパス「アイコン・パス」に加盟。パス所有者は、アスペン・スノーマスやディア・バレー・リゾート、ジャクソンホール・マウンテン・リゾートといったアメリカの一流スキーリゾートも利用できる。

ドロミテ・スーパースキーのコース、またはリフトが結ぶ村の数は約50。そのほとんどは谷底にあり、ゲレンデとリフトがすぐそばまで迫っている。このため一流ホテルはもちろん、村全体でスキーイン&アウト(スキーやスノーボードを履いたままの出入り)が可能だ。

ランチ休憩でゲレンデを下りて食事を楽しむのも手軽な上、レストランのレベルも高い(アメリカのスキー場にあるようなフランチャイズ店もない)。山の上にある山小屋“レフュジオ”の食堂を含め、スキー場の周辺にあるのはほとんどが家族経営の素朴、かつ味にこだわるレストランだ。そこで提供される料理は素晴らしく、中には一流レストランも真っ青のワインリストをそろえている店もある。また山小屋の多くは宿を兼ねているため、山小屋から山小屋へと渡りながら一度も下山せずにスキー三昧を楽しむこともできる(その場合、麓ふもとの村でのお楽しみは諦めることになるが)。目的が食事であれ宿泊であれ、その両方であれ、山小屋選びには困らない。アルプスには至る所にレフュジオがあり、わけてもドロミテはその多さで有名なのだから。

広さだけでなく景観もまた想像の域をはるかに超えるドロミテは、その地質学的な特異性からユネスコの世界遺産に登録されている。ドロミテ山地は海抜約2700~3300メートルの高さに垂直に切り立つ15の巨大な岩塊からなっており、これらが壮大な景観を作り出している。中でもドロミテ・スーパースキーの主要部はセッラ山塊を一周するようにつながっており、全長約40キロの周回ルート「Sellaronda」は世界屈指の絶景コースとしてスキーファンにおなじみだ。コース自体の難易度もさほど高くなく、完走した時の達成感は大きい。

想像を絶する広大なスキーエリア、趣ある村々、素晴らしい風景、そしておいしいイタリア料理。そのどれを目当てにするにせよ、ドロミテへのスキー旅を決めるのに時間はかからない。むしろ難しいのは、「ドロミテのどこへ行くか」を決めることだ。何しろドロミテはとても広く、主要な地域が3つもあり、さらに、それぞれの地域内にも魅力的な候補地がたくさんあるのだから。

Val Gardena

Aman Resorts’ Rosa Alpina

The indoor pool at Rosa Alpina

ヴァルガルデーナとアルタバディア

隣り合う2つの谷、ヴァルガルデーナとアルタバディアにはドロミテ・スーパースキーのゲレンデの大部分があり、いくつかの主要な村がまとまって一大観光地を形成している。従ってこれらの村のどこかに滞在すれば、ドロミテのスキーエリアのほぼ全域に手軽にアクセスできる。そんな2つの谷の一方、アルタバディアにあるローザ・アルピナrosalpina.it)は、ドロミテで最もラグジュアリーなスキーホテルだ。現在はアマンリゾーツの傘下となっており、ミシュラン三つ星レストランSt. Hubertusを併設している。そのローザ・アルピナと双璧をなすラ・ペルラlaperlacorvara.itは、いかにも山岳リゾートらしい魅力にあふれた家族経営の五つ星ホテルで、館内に超高級ヴィンテージワインが並ぶワインセラーとミシュラン星付きレストランがある。もう一方の谷、ヴァルガルデーナには、歩行者天国の長い目抜き通りで知られる村、オルティセイに五つ星ホテルのアドラー・スパ・リゾート・ドロミテ(adlerresorts.com)と、同じく五つ星で改装したてのガルデーナ・グロドネルホフ(gardena.it)がある。その近郊のセルヴァ・ディ・ヴァル・ガルデーナ村にあるホテル・チロル(tyrolhotel.it )は、家族経営の隠れ家的四つ星ホテルだ。こちらはきめ細かいサービスとおいしいレストランに定評がある。

Cortina d’Ampezzo

Local specialties at Hotel de Len

Cristallo

コルティナダンペッツォ

「ドロミテの女王」と呼ばれるコルティナダンペッツォは、高級ブティックが軒を連ねるイタリアきってのラグジュアリーなスキータウンだ。映画『007/フォー・ユア・アイズ・オンリー』ではここでジェームズ・ボンドが華麗なスキーさばきを披露し、“ボンドカー”のアストン・マーティンをスキーラック付きの赤いロータス・エスプリ・ターボに乗り換えた。そんなコルティナダンペッツォでは2026年、冬季オリンピックの開催が予定されている。

コルティナダンペッツォの一番の魅力は、町そのものが大きく、レストランやショップが近隣の村々より多いことにある。またベネチアの国際空港から車で2時間弱と、前述の2つの谷より1時間ほど近いのも利点だ。エリア自体のスキー環境は周辺地域に比べると少々劣るが、ドロミテ・スーパースキーの一部でもあるため、リフトを乗り継げば圏内のどのゲレンデへも行ける。

この地域の最高級ホテルは、五つ星のクリスタッロ・ア・ラグジュアリー・コレクション・リゾート&スパmarriott.com)だが、オリンピックに向けた大規模な改修のため、2023年冬~2024年春、2024年冬~2025年春は休業する。その間、この町のホテルの顔を務めるのは、2022年にオープンしたホテル・デ・レンhoteldelen.it)だ。ここは地元産の素材を使ったレストランと多彩なメニューをそろえたスパを併設している。

Chalet del Sogno

マドンナ・ディ・カンピリオ

ガルダ湖に程近い小さな飛び地のような山岳地域、ブレンタドロミテは、他のドロミテ地区と同じくユネスコの世界遺産に登録されている。その一画をなすマドンナ・ディ・カンピリオは、まさしく真のスキータウンと言えるだろう。町はすり鉢状の谷の底にあり、互いにコースでつながった3つのスキー場がすり鉢を一周する形で谷を囲んでいる。そのため、町のどの施設でもスキーイン&アウトが可能だ。各スキー場を57基のリフトとゴンドラが結び、その間を総距離156キロのコースがつなぐ。ここでは前述のヴァルガルデーナやアルタバディアと異なり、林間スキーや難易度の高い急斜面の滑降、バックカントリースキーも楽しめる。また、スノボなどをフリースタイルで楽しめる世界最大級のテラインパークの他、珍しいところではトボガンぞり用コースもある(そりはレンタル可能)。

ドロミテの大半の村より大きいマドンナ・ディ・カンピリオにはホテルやショップ、レストランが数多くあり、1カ所で完結する、歩いて回れる規模の滞在先を探している人に最適の町だ。ラグジュアリーホテルの選択肢は限られるが、シャレー・デル・ソーニョhotelchaletdelsognocampiglio.com)は、高級ながら温かみのある雰囲気で評判が良い。暖房に地熱を使うなど環境に配慮した17客室は、全室スイートルーム仕様となっている。

Col Alto ski lifts in Alta Badia

行き方

ドロミテの主な玄関口はベネチアの国際空港で、ヨーロッパ各地から直行便が出ている。空港からゲレンデまではリムジンで移動すれば、ほとんどの目的地に2~3時間で到着する。その他、少し離れているがオーストリアのインスブルックや、車での移動時間が1~2時間長くなるがフライト数が最も多いミラノから入るルートもある。

Rosa Apina

宿泊先

ドロミテは長い間、チェーン系ホテルがないことを誇りにしていた。近年こそ高級チェーンのアマンやマンダリン・オリエンタルが進出したが、今も小規模な独立系ホテルが大多数を占めている。隠れた名ホテルも多いので (大抵は料理が魅力)、現地の情報に詳しい旅行代理店を通じて予約するのがベストだ。

Alpine Adventures

旅行会社

アメリカのスキーリゾート、アスペンを拠点とするスキー・ドットコムski.com)や、アルパイン・アドベンチャーズalpineadventures.net)などの富裕層向けスキーツアー会社が、ドロミテへの各種ツアーを提供している。しかし同様のサービスなら、地元ドロミテの富裕層向けスキーツアー会社で、アメリカに支店を持つドロミテ・マウンテンズdolomitemountains.com)も頼れる存在だ。美食がテーマのスキー旅から全日程ガイド付きの旅、送迎、高級ホテル、複数の町の滞在、レフュジオ巡りの手配まで、豊富な知識と幅広いコネクションを生かし、ワンストップでサポートしてくれる。

Alta Badia

リフト券、スキーレッスン

リフト券の種類はとても多く、日程や自身の体力に応じて選ぶ必要がある。だが外国人スキー客にとって最も使い勝手がいいのは「ドロミテ・スーパースキー」の滑り放題パスだろう(パスの種類は、5日間滑り放題、10日間滑り放題、ファミリーパスなど)。各村に複数のスキースクールがあるため、レッスンを受けたい場合はホテルのコンシェルジュか旅行代理店に依頼してお薦めのスクールを予約してもらおう。