ファームハウススタイルのキッチン
アメリカ(ニューヨーク州アマガンセット)
建築:キャサリン・フィー・アーキテクツ, kathrynfee.com
内装:マイケル・デル・ピエロ・グッド・デザイン, michaeldelpiero.com
面積:約260平方メートル
ファームハウススタイルのポイント:1800年代のアンティークテーブル、廃材を再利用した梁、白しろ鑞め(錫すずの合金)製の蛇口
黒染め木材で建てられた2棟の納屋を全面ガラスの玄関ホールでつなげたこの家は、一見モダンに見える。とりわけスチール製のI型梁や、キッチンのカウンタートップ、コンクリート製のシンクはモダンそのものだ。ここは田舎家の馬小屋だったため、「(その素材を生かすべく)シンプルにすべきと思ったのです」と、内装を手掛けたマイケル・デル・ピエロは言う。「レイアウトはシンプルで、建材の種類も多くありません。コンクリートと黒染め木材、そして天然の白しろめ鑞などです」。黒い染料の下にオーク材の木目と色合いが透けて見え、古い納屋に使われていた木材を再利用した天井の梁や、1800年代のフランス製アンティークテーブルが田園らしい雰囲気を醸し出す。「大ぶりで飾り気のない白鑞の蛇口も、理想的ではないにしても、この建物の納屋のような趣によく合っています」。
アメリカ(メイン州バイナルヘイブン)
建築: ポール・ムロジンスキー, marstonhouse.com
内装: 家主
面積: 約92平方メートル
ファームハウススタイルのポイント:1800年代に作られた田舎風の食器棚とテーブル、板壁、梁が見える天井、オープンシェルフ、アンティークの陶器製水差し
この建物はノースヘイブンにあった1800年代中期築の郵便局を、1906年にペノブスコット湾沿いのバイナルヘイブンに移築したものだ。その後、夫婦で建築やデザインを手掛けるポールとシャロンのムロジンスキー夫妻により、2人のレトロ趣味を生かして改装された。1階には2人が経営するアンティークショップMarston Houseがあり、2階が居住空間になっている。「私たちは2人ともごく実利的なタイプなので、もともと持っていた家具を使うことにしただけです」とポールは言う。そうした“寄せ集め感”が、羽目板の壁や、元のままの板張りの床、梁の見える天井など、室内の特徴を一層際立たせている。1800年代中期の食器棚と調理台兼用のテーブル、1860~70年代のイギリス製農家風テーブル、イタリアのトスカーナ地方で使われていた木製の天板などは、全て夫妻のアンティークコレクションにあったものだ。
カナダ(オンタリオ州ミルトン)
建築:スタジオC2, studioc2@gmail.com
内装:ケイシー・デザイン・プランニング・グループ株式会社, caseydesignplan.com
面積: 約436平方メートル
ファームハウススタイルのポイント:古びた感じの梁、1880年代の使い古した作業台、ファームハウススタイルのシンク、柄タイルの床
ここは文字通り、不死鳥のごとく蘇った建物だ。この1862年築の田舎家は2013年に火事で焼失。その後、建築家のクレイグ・クレインとインテリアデザイナーのテレサ・ケイシーにより、住居として再建された。写真の広々としたキッチンには、現代的な機能性と共に、居心地の良いファームハウススタイルが取り入れられている。「歴史ある建物に敬意を表しながら、新しい息吹を吹き込みたいと思ったのです」とケイシーは言う。モダンな白いキャビネットや、スペインの加工石材メーカー、コセンティーノが開発した新素材「Silestone」製のカウンタートップと、廃材の梁や、敷地内で見つかった1880年代に作られた2台の作業机をつなげた調理台が同居する。スペイン製のタイルは旧世界の雰囲気が漂うが、陶製で模様入りのため、汚れが目立たず実用的だ。「農家の美意識ですね。でも、とても衛生的です」。
イギリス(スコットランド、レアーグ)
建築: グローブスレインズ・アーキテクツ・スタジオ有限責任会社, gras.co
内装: ルース・クレーマー, rk@brucke49.ch
面積:約720平方メートル
ファームハウススタイルのポイント:石材の床、ニッケル製の羽目板、オープンシェルフ、実用的な照明、ファームハウススタイルのテーブル
高い機能性と農家風の温かみは、両立できないものではない。その証拠がランディーズ・ハウスだ。現在、小規模なデザイナーズホテルとして使われているこの建物は、かつては牧師館(1840年代初頭築)だった。内装の改修はデザイナーのルース・クレーマーと、キッチン家具メーカー、プレーン・イングリッシュのシニアデザイナー、サラ・ピクトンが担当。「高地地方の風景の中で引き立つ、温かい色調を選びました」とピクトンは言う。オーブンはヨーロッパのアンティーク風だが、実はイタリアの高級ブランド、モルテーニ製の最新式だ。化石石材のカウンターと真ちゅう製の備品に、伝統的な建具類や金物類を組み合わせたキッチンは、スカンジナビアとスコットランドの雰囲気を併せ持つ新しいスタイルに仕上がっている。「よくあるファームハウススタイルのキッチンより、機能的で洗練されていますよ」とピクトンは胸を張る。
イタリア( ルッカ)
建築: 不明
内装: スタジオ・ヨリス・ファン・アパース, vanapers.be
面積:約1000平方メートル
ファームハウススタイルのポイント:再生利用のオーク材と松材、再生テラコッタタイルの床、石壁、コンロ奥のアンティークタイル張りの壁、テーブルを転用した調理台、手塗りの漆喰壁
「再生材料をうまく使えば、時が経っても色褪せないインテリアになる」と、トスカーナ地方にあるこのキッチンをデザインしたヨリス・ファン・アパースは考えている。再生材料の利用は彼のスタジオが得意とする手法で、事実、デザインを手掛けた内装はいずれも、年月を経た温かみや包み込むような快適さを感じさせる仕上がりだ。「このキッチンのデザインに当たっては、17世紀に建てられた屋敷の歴史的背景を尊重したいと思いました」、そうファン・アパースは振り返る。ここにあるものは、コンロ奥の壁材から床材、調理台の大理石まで、ほぼ全てが再生材料だ。新しく作ったものも再生材料を取り入れていて、例えば大きな農家風テーブル下の収納キャビネットは、外板に再生オーク材を使用。ただし内部には現代的な収納システムを取り入れ、最大限の実用性を実現している。
アメリカ(コネチカット州コーンウォール)
建築:ピーター・ジマーマン・アーキテクツ, pzarchitects.com
内装: バーラス・ベイラー, hudsonfurnitureinc.com ピーター・ジマーマン・アーキテクツが協力
面積: 約749平方メートル
ファームハウススタイルのポイント:彫り石のシンク、1900年代の作業机、廃材のレンガと床材、アンティークの食器棚
「長いこと放置されて、塗装が剥げかかっているイギリスかアイルランドの館のようでしょう?」と、設計を手掛けたピーター・ジマーマンはこのキッチンについて話す。「この家は装飾を加えるというより、むしろ引いて作った家なのです」。これは農家風のキッチンにふさわしい描写だ。あくまで実用的で、華やかさとは縁遠い空間。何より素晴らしいのは、ニューヨークの家具ギャラリーHudson Furnitureの創業者、バーラス・ベイラーのために建てられたこの家が、全くの新築なのに、何世紀も前からここにあったように見えることだろう。それもそのはず、建材は古いレンガや、納屋の干し草置き場に使われていた板など、全て再生材料。調理台や食器棚など、家具もアンティークだ。調理カウンターの向かい側には大きな暖炉があり、その前に椅子とテーブルが置いてある。約70平方メートルのこの空間は、家族の温かい団らん用に設計された場所だ。
アメリカ(サウスカロライナ州沿岸部)
建築: 不明
内装: 家主、ラトゥリエ・パリス・ホート・デザインが協力, leatelierparis.com
面積:約325平方メートル
ファームハウススタイルのポイント:手塗りの漆喰壁、オープンシェルフ、まとまり感のある調理台、幅広の板を張った床、コンロ台の上のタイル壁
料理が好きで、もてなし上手な家主婦人は、「本当の意味で機能的なキッチン」を求めていたと、内装を手掛けたラトゥリエ・パリス・ホート・デザインの創業者、マリア・モラレスは言う。「全体をタイル張りにしたら、モダンになり過ぎます。手塗りの漆喰壁にしたことで、温かみと良い質感が出ました」。レンジフード口の横木はまさにファームハウススタイルの定番ディテールだが、「(ここに配置するのに)悩むまでもありませんでした。雰囲気が出ますからね」。使い古した感じを出すために、棚やキャビネット、床板にはワイヤーブラシ加工をした質感のあるオーク材を選び、棚と床にはオイル仕上げを施した。そしてタイル張りの壁のくぼみ部分には、同ラトゥリエ・パリス・ホート・デザイン製のコンロ「La Provençale 1200 French」を設置。「取っ手は磨き仕上げの真ちゅう製なので、手入れ要らずで、使い込むほどに風格が出てきます」。
イギリス( バース)
建築:ワトソン、バートラム&フェル, wbf-bath.co.uk
内装: 家主、deVOLキッチンズが協力, devolkitchens.co.uk
面積: 約153平方メートル
ファームハウススタイルのポイント: エプロン・フロント・シンク 、石壁、オープンシェルフ、色の異なる挽き板のキャビネット
家主のマイケル・ホロウェイはバースでケータリング会社を営んでいる。だからこそ、妻のハンナは言う。「夫はシェフなので、ちゃんとしたキッチンを持つことはとても大事なのです」。しかし、ライフスタイルブランドMazeを経営する彼女にとっては、見た目の美しさも同じくらい重要だ。2人は1830年に建てられたこのジョージアン様式の建物に、石の外壁を生かしながらキッチンとダイニングを増築することにした。協力したのは、オーダーメイドキッチンメーカー、deVOLキッチンズのデザイナー、エマ・レイスメルとクリエーティブディレクターのヘレン・パーカーだ。「外壁を室内に取り入れるというのは大胆な発想ですが、当社がロンドンの工房と共同開発したブナ材のキャビネットはノコギリで切ったような粗い質感があり、このキッチンのナチュラルなデザインにぴったりでした」、パーカーはそう振り返る。