Chateau Montelena

”アイルランドのワイン”などあり得ない?

By Frank Vizard
Viña Errazuriz

Mount Pleasant Winery

Chateau Kirwan

Hennessy

Domaine la Sarabande

「アイルランドのワイン」などと口を滑らせようものなら、ワイン通はすかさず眉をつり上げるはずだ。それもそのはず、アイルランドにはブドウ畑などほとんどない。しかし実は”アイルランドのワイン”は、アイルランド以外の有名ワイン産地でたくさん造られている。

“ワインギース”とは、世界各地のワイン生産者でアイルランドにルーツを持つ人々の愛称である。その由来は、1690年の「ボインの戦い」でカトリック教徒のイングランド王ジェームズ2世を支持したアイルランド人1万4000人の国外脱出、通称「ワイルドギース(野雁)の逃亡」にさかのぼる。その後も1715年と1745年の2度にわたり、多くのアイルランド人がフランスに亡命した。彼らはボルドー周辺に定住し、多くは当時活況を呈していたワイン貿易の仕事に就いた。その頃、フランスからアイルランドに船で密輸されたワインの積荷目録には、しばしば“ワイルドギース”と書かれていたという。

ボルドーでアイルランドとのつながりが明らかなブドウ園は、シャトー・フェラン・セギュールやシャトー・ボイド・カントナックなど枚挙にいとまがない。一方、コニャック地方に渡ったヘネシー家もワインを蒸留してブランデーを造り、創業から2世紀以上が経つ今では高級ブランデーの代名詞となった。ほどなくしてアイルランド出身のワイン生産者“ワインギース”は、ボルドーからブルゴーニュなど他地域のワイン産地へ、そして世界へと進出していく。

アメリカでもコンキャノン・ヴィンヤーズ、シャトー・モンテレーナ、マーフィー・グッドなど、アイルランドにゆかりのあるワイナリーが多数ある。オーストラリアのクレアバレーというワイン産地は、アイルランドのクレア県からその名を取っている。同地区にあるアイルランド系ワイナリーの代表格は、シラーズ種の「ジ・アーマー」で有名なジム・バリー。チリの2つのワイナリー、エラスリスとウンドラーガもアイルランド系だ。そして南アフリカには、1970年代にアイルランド移民が始めたハミルトン・ラッセル・ヴィンヤーズがある。

こうしたアイルランドを出自とするワイン銘柄の多くが今、本国アイルランドの高級ホテルで提供されている。例えばアシュフォード城で出されているワインも、一見そうと分からないものが、実は“アイルランドのワイン”であるわけだ。