動物を救い、世界を救う
昨年、国連はこれから動物の絶滅速度がかつてないほど加速すると予測した。
今後の展開はひとえに人間の行動にかかっている。
2019年、オーストラリアのコアラ財団が「コアラは機能的絶滅(functionally extinct)の状況に陥った」と発表し、ソーシャルメディア上に悲しみの声があふれた。「機能的絶滅」とは、ドードーやマンモスのようにその個体が完全にいなくなるという意味ではなく、個体数が減り過ぎて子孫を残せない状態にあると科学者が推測した状態だ。ただしこの推測には現在、意義も唱えられている。昨年オーストラリアを襲った壊滅的な森林火災の影響は確かにあるが、機能的絶滅という結論を出すには時期尚早という声もあるのだ。
しかし、「コアラが絶滅してしまった」と感じたその絶望的な感情は、忘れてはならない。なぜならば今後、「絶滅」はさらに頻繁に起こると言われているからだ。昨年、国連は専門家455人の意見をまとめた報告書を発表。今後、動物の絶滅速度がかつてないほど加速すると予測した。地球上の生物800万種のうち100万種が“人間のせいで”絶滅の危機に瀕していると読み取れるこの報告書は、強いメッセージとなり、人々の行動変容を求める取り組みが世界中に広がった。
WWF(世界自然保護基金)の主任研究員、レベッカ・ショーは、動物種の減少と人類の運命を結び付けて考えている。「健全に機能している生態系は、きれいな空気、水、原料を供給してくれます。しかし私たちはそれを持続不可能な速度で消費しています。早急に手を打たなければ、人間も生き残りが難しい状況になるでしょう」。
IUCN(国際自然保護連合)が発表した最新の「レッドリスト(絶滅の可能性がある野生生物のリスト)」には、10万5700種以上が掲載されている。しかしレッドリストに掲載されていても、その多くは今から取り組めば絶滅を防げる可能性がある。ここではIUCNやEPA(米国環境保護庁)の絶滅危惧種リストに掲載された、8種類の動物の最新情報を紹介しよう。
ユキヒョウ
分類:VU(危急種) ※IUCN の定義
高山の生態系を代表する種、ユキヒョウは生息数が減少し、絶滅の危険性が高い状況にある。
南アジアや中央アジアの高山に生息しているユキヒョウは、高山で獲物を狩り、通常、単独で行動する。目撃の難しい「幻の動物」として知られており、地元の神話や伝説にも登場する。体を覆う厚い体毛の色が生息地の岩場に溶け込んでいること、そしてその他の大型ネコ科動物に比べ生息密度が低い(100平方キロあたりに成体は推定1頭未満)ことから、発見するのが難しい。正確な個体数は不明だが、推定3920頭から、多くとも6390頭と言われている。ユキヒョウは何千年にもわたって山岳民族と共存してきたが、今日、人間によって絶滅の危機に瀕している。
「ユキヒョウは、あらゆる大型ネコ科動物の中で、最も謎めいた存在です」と、世界最大のユキヒョウ保護団体スノーレパード・トラスト(snowleopard.org)の事務局長、チャルー・ミシュラは説明する。「アジア12カ国の険しい山岳地帯で極寒の環境に暮らすユキヒョウは、今、危機的な状況に置かれています。もともとユキヒョウの個体数は少ないのです」。その理由は、生息地の厳しい環境や、ユキヒョウの獲物である野生の羊やヤギの数が限られているからだと言う。
かつてユキヒョウは人里離れた場所に生息すると考えられていた。しかし近年の道路開発や鉄道建設、インフラ整備事業で生息地が縮小。高山の生態系は脅かされ、狩りや繁殖が難しくなってきている。ミシュラは説明する。「ユキヒョウは最終氷河期が終わった頃からずっと、牧畜民と共存してきました。しかし時に、食料を求めて家畜を襲うこともあります。すると牧畜民はユキヒョウを殺してしまいます」。
こうした状況を改善するために、スノーレパード・トラストをはじめとする自然保護団体は地域社会と連携し、啓蒙活動を実施している。家畜を殺された場合は、損失を補填。牧畜民の収入増加につながる持続可能な開発計画も提案している。加えて「この10年で増加している、ユキヒョウの毛皮や骨の違法取引を阻止しなければならない」とミシュラは訴える。「政府や地域社会が一丸となって、より大規模な取り組みを行う必要があります」。
ユキヒョウを見に行こう:旅行代理店のボイガー・エクスペディションズ(voygr. com)は、「ユキヒョウを目撃する稀少なチャンス」と謳った14日間のトレッキングツアーを主催。カラコルム山脈から西チベット高原へ向かう行程ではそのほとんどの宿泊地が、ユキヒョウの世界最大の生息地として知られるインドのヘミス国立公園となる。
メキシコオオカミ
分類:EN(絶滅危惧種) ※ESA の定義
北米のハイイロオオカミの中で、最も絶滅に近く、現在、保護施設で繁殖させる取り組みが行われている。
かつて「エル・ロボ」(スペイン語で「オオカミ」の意)はアメリカ先住民の神話に登場し、古代メキシコでは戦士のシンボルとして崇められる超自然的な存在でもあった。ところが1900年代半ばから、野生のメキシコオオカミはアメリカ政府主導の下、狩猟や毒殺、さらには巣穴の子どもまで含む捕獲により、次々と駆除されていった。1970年代半ばまでにアメリカではほぼ絶滅状態になり、残っているのは飼育されているわずか数頭だけとなる。
1976年、米国魚類野生生物局は、メキシコオオカミを「絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律」の対象とし、メキシコと協力して、野生でかろうじて生き残っていた個体の保護に乗り出した。まずはメキシコでオス4頭と妊娠中のメス1頭が捕獲され、初となる保護施設での繁殖を開始。その結果、1998年に11頭が指定自然区域に戻された。2018年までに、32の群れ、131頭の野生のメキシコオオカミが確認され、飼育下でも240頭まで増加。しかしまだ展望が明るいわけではない。
「これまでメキシコオオカミは、家畜被害を防ぐために駆除されてきました」と、自然保護団体ディフェンダーズ・オブ・ワイルドライフ(defenders.org)の南西部代表、クレイグ・ミラーは言う。「少しずつ数は回復してきましたが、この先どうなるかはまだ分かりません。保護施設での繁殖も5頭の個体から始めたため、遺伝的に偏りが出て、抵抗力が弱まっています。加えて今もまだ、メキシコオオカミを害獣と考える人もいます」。
同団体は近隣の牧場主や野生動物の管理者と連携して、家畜被害によるトラブルを減らす活動をしている。さらに家畜被害が発生した際は、迅速に牧場主の損害を補填。オオカミが駆除される機会の減少につなげている。「活動を続けているうちに、利害関係者とのコミュニケーションもスムーズになり、信頼が生まれました――思いがけない友情も」。ミラーは続ける。「もちろん、提案する解決策全てに同意が得られているわけではありません。しかし人と野生生物が共存できるよう、協力していくことに関しては、意見が一致しています」。
メキシコオオカミを見に行こう:ネイティブアメリカンによるガイドサービス、ウルフホース・アウトフィッターズ(wolfhorseoutfitters.com)は、メキシコオオカミの生息地を馬で巡るツアーを実施している。出発地はアメリカ、ニューメキシコ州シルバーシティー。ガイドの丁寧な解説を受けながら、数日かけてオオカミの足跡をたどる。
タイマイ
分類:CR(近絶滅種) ※IUCN の定義
古代から生き延びてきたウミガメに、密漁、そして環境劣化による絶滅の危機が迫る。
ウミガメ科のタイマイは、進化に成功した動物の代表例だ。発見された最古の化石は2億3000万年前にさかのぼる。地球ではこれまで何度か生物の大量絶滅が起こったが、それを生き延びたタイマイは、現存する爬虫類の中でも極めて原始的な種となった。数千年にわたり繁殖を続け、大西洋とインド太平洋にいる亜種を含めば全世界に分布している。
しかし、タイマイが進化上で身に付けた特性こそ、人間に殺される原因となったのかもしれない。扁平な体形、がっしりした甲羅、外洋を泳ぐのに適したヒレのような手足を持つタイマイは、鋭く曲がったくちばしと甲羅の縁のギザギザした形が他のウミガメと大きく異なる(英名の「hawksbill」は「鷹のくちばし」の意)。さらに特徴的なのは、水温によって甲羅の色が変化し、美しい色に染まることだ。そのため、タイマイの甲羅はべっ甲の原料とされ、それが個体数を減らす最大の要因となった。
CITES( 絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引に関する条約)によると、過去100年間にタイマイの個体数は90%も減少し、そのうち80%がここ10年間に失われたのだという。現在の生息数については正確な数字は出ていないが、IUCNの推計によると、個体群は世界にわずか5つで、個体数は約8000頭、毎年産卵するメスに至っては1000頭のみとなっている。これは生物の存続という観点からすると、極めて低い数値と言える。
「現在、タイマイはあまりにも数が少なくなってしまったため、生態系における役割を果たせなくなっています」と、フロリダ大学の教授で、アーチー・カール・ウミガメ研究センター(accstr.ufl. edu)の代表を務めるカレン・ビョーンダルは言う。タイマイが殺されたのは肉と卵のためでもあったが、最大の目的はやはりその美しい甲羅だった。また、主要な生息地であるサンゴ礁が失われることで、より一層の危険にさらされている。
タイマイを見に行こう:タイマイはアメリカ領ヴァージン諸島、セントクロイ島沖の透明な海によく現れる。その姿を見るには、ダイビングショップN2 ・ザ・ブルー・スキューバダイビングが主催するダイビング、シュノーケリングツアーがお薦め。タイマイが生息する浜辺や岩礁、神秘的な洞窟、また産卵地のバック島にも案内してもらえる。
クロサイ
分類:CR(近絶滅種) ※IUCN の定義
クロサイは「20 年以内に絶滅」という最悪のシナリオも示唆されている。
悲しいことだが、アフリカのクロサイは、人間の手によって絶滅に追い込まれた最も象徴的な例と言えるだろう。60年ほど前、その個体数はおよそ10万頭だったが、1960~1995年の間に無残にも98%減少。1993年には2300頭のみとなった。現在、わずかだが復活し、約5500頭となっている。専門家によると、こうした減少の大本の原因は、クロサイ(さらにはサイ5種全て)が直面している2つの脅威にあるという。一つは生息地の消失、もう一つは密猟だ。
「クロサイは我々が生きているうちに絶滅してしまうかもしれません」と、サイの非営利保護団体ヘルピング・ライノズ・オーガニゼーション(helpingrhinos.org)の創設者で会長のサイモン・ジョーンズは言う。この団体は、サイが自然の生息地で生き残っていくための保護活動や地域との連携、教育活動を行っている。「美しい角を持つサイは、アフリカで最も象徴的な動物の一つです。ところが不幸にも、その角こそが、絶滅の危機を招いてしまった原因となったのです」。
クロサイが近絶滅種になってしまった理由は、角の需要の高さにある。ブラックマーケットでは、世界で最も高価な商品の一つであり、粉末にした角は、一般にアジアの消費者、特にベトナムと中国で民間療法に用いられ、一部では媚薬と考えられている(実際は違う)。特に南アフリカでの密猟が多く、ピークとなった2014年には1215頭ものサイが殺された。その後、少しずつ減ってきているが( 2019年には594頭)、密漁は現在も発生しており、絶滅へのシナリオを加速させている。「密猟の根本原因に働きかける、大胆な変革と教育が必要です」とジョーンズは言う。「密猟で儲かる仕組みをなくし、生息地を守ることができれば、クロサイが生き残れる可能性はぐんと高まります」。
クロサイを見に行こう:ケニアのライキピア郡にあるオル・ペジェタ自然保護区(olpejetaconservancy.org)は、ヘルピング・ライノズ・オーガニゼーションなどの非営利団体と協力し、クロサイの保護区を運営している。現在の個体数は、東アフリカで最も多い約130頭。ゲストはテントやバンガローに滞在して、監視員の監督の下、保護動物を間近で見たり、約360 平方キロの広大な私有保護区の奥地を探検したりすることができる。
コガシラネズミイルカ
分類:CR(近絶滅種) ※IUCN の定義
世界で最も希少な海洋哺乳類。絶滅は避けられないと見られていたが、しばしの猶予を与えられた。
昨年夏、メキシコ、バハカリフォルニア半島の海域で思いがけない報告があった。環境保護団体シーシェパードの「シャーピー号」が、8月に2頭のコガシラネズミイルカを撮影し、続いて翌9月にはまた別の4頭を目撃したというのだ。報告によると、確認された6頭は、「成体で、健康状態は良好に見えた」という。
コガシラネズミイルカは滅多に人前に姿を見せないため、これは控え目に言っても注目に値する出来事だ。WWFが2018年までに絶滅する可能性も示唆していたほどの、近絶滅種である。体長約140センチメートルのコガシラネズミイルカは、クジラとイルカを含む分類「クジラ目もく」の中で最も小さい。1950年に初めて確認された種だが、科学者らはこの時、既にコガシラネズミイルカが絶滅への道を歩んでいることに気付いていた。なぜなら定期的に発見されるコガスラネズミイルカは、大型魚トトアバを捕るために張られた「刺し網」に引っかかって溺死していたからだ。1975年、メキシコ政府はトトアバ漁を法律で禁止。しかし違法操業はなくならず、刺し網にかかって溺死したコガシラネズミイルカは発見され続けた。
2005年、コガシラネズミイルカの個体数は200頭にまで激減する。メキシコ政府は科学者の激しい抗議に応えて、湾の一部を保護区に指定。その後、全ての個体を保護区に移すという試みがなされたが、囲いの中で2頭のメスがストレスの兆候を見せ、1頭が死亡し、この取り組みは失敗に終わった。現在、コガシラネズミイルカを守るには「刺し網漁」の禁止が急務であり、シーシェパード(seashepherd.org)が急先鋒となって働きかけている。
シーシェパードは過去5年間にわたり、「オペレーション・ミラグロ(奇跡の作戦)」を実施。カリフォルニア湾北部をパトロールして密漁を監視し、総計200キロ近くにも及ぶ990枚もの漁網を回収してきた。シーシェパードの創設者であり事務局長のポール・ワトソンは言う。「私たちは、コガシラネズミイルカの通り道から刺し網漁の脅威を失くすために全力を尽くしています」。
コガシラネズミイルカを見に行こう:個体数が極めて少ないため、コガシラネズミイルカを目撃できる可能性は低く、ツアーを提供している旅行会社などもない。唯一の方法は、非営利保護団体ヴィヴァ・ヴァキータ(vivavaquita.org)の調査船に乗船することだ。目撃情報の記録などを目的とするこの調査船は、メキシコのカリフォルニア湾北部に定期的に出航。一般の乗船希望者をたびたび受け入れている。
アオキコンゴウインコ
分類:CR(近絶滅種) ※IUCN の定義
「青ひげ」の愛称で親しまれるこの鳥は、絶滅寸前のところで個体数に改善が見られたが、今も予断を許さない。
アオキコンゴウインコは鳥類の中で最も希少な種と言えるだろう。この美しい鳥は生態がつかみにくく、科学者は既に絶滅種と見なしていたが、1992年、ボリビア中北部で再発見された。ごく少数の群れで暮らし、他のコンゴウインコと違って森ではなく、毎年洪水に見舞われるベニ県のサバンナ、そこに群生するヤシの木を棲み処としている。色鮮やかな羽毛を持つこと、そして繁殖のための営巣地が限られていることで、この鳥には過酷な運命が待ち受けていた。
「海外のペット市場に販売するため、密猟が激化し、あやうく絶滅するところでした」と、ボリビアの非営利保護団体アルモニア協会(armoniabolivia.org)の事務局長ロドリゴ・ソリアは振り返る。「しかし協会が推進した教育・保護活動、そして鳥類の保護政策により、2000年代の初めにどうにかその危機を脱しました。とはいえ予断は許さない状況です。現在、最も差し迫った問題は、牛の大規模放牧によって、ベニ県のサバンナが広範囲にわたって破壊されつつあることです」。
この珍しいインコはくちばしの横の青い毛が特徴で、地元の人々からは「バルバ・アズール(スペイン語で「青ひげ」の意)」と呼ばれている。1980年代にペットとして人気が高まり、密売が増加。野生では絶滅したと考えられていたが、一体どこから連れて来るのか、外国市場に出回り続けた。そこでボリビアの保護活動家は、猟師に協力を仰ぎ、アオキコンゴウインコの生息地を探り、約50羽が生息するヤシ林を見つけ出した。
現在、この鳥の個体数は少しずつ増加している。昨年、ベニ県のサバンナにレイニー・リックマン・アオキコンゴウインコ保護区が設立されたことで、アルモニア協会による保護活動は大きく前進した。既存のバルバ・アズール自然保護区と合わせて、現在では47平方キロの保護区がこの鳥のために捧げられている。過去2年間で、81羽の雛が人工の巣箱から羽化。総個体数は約450羽まで回復した。
アオキコンゴウインコを見に行こう:ボリビアの人里離れたベニ県のサバンナに、アルモニア協会がアオキコンゴウインコの保護を目的として設立したバルバ・アズール自然保護区がある。保護区内にはビジター用のキャビンがあり、滞在中は食事が提供される他、ボートツアー、乗馬、保護区内の自由な散策(バードウォッチャーや写真家に人気が高い)などが楽しめる。
オランウータン
分類:CR(近絶滅種) ※IUCN の定義
人間に最も近いこの動物は、“人間の進化”によってもたらされた危機に直面している。
オランウータンについては、この75年間で世界の個体数が約80%も減少したという衝撃的なデータがある。野生のオランウータンはかつてアジアの森に広く生息していたが、今ではインドネシアのスマトラ島とボルネオ島でしか見られない。100年前、野生のオランウータンの生息数は推定31万5000頭だった。それが現在では、保護団体によると、スマトラ島に1万4600頭以下、ボルネオ島に5万4000頭以下しかいなくなってしまった。
「インドネシアの森林は、紙パルプ・木材製造の工業団地、パーム油のプランテーション、そして人口増加による破壊が進んでいます。そのため生息地を奪われた野生動物と人間のトラブルも深刻化しています」とオランウータン国際財団(orangutan.org)の代表、ビルーテ・メアリー・ガルディカスは言う。
生息地の破壊と密漁によって、今後、オランウータンは50年以内に絶滅する危険がある(国立公園や保護区を除く)。ガルディカスは説明する。「熱帯雨林の破壊による個体数減少に加え、密猟で殺されたり、飢えで死んだり、さらには捕らわれて違法なペット市場に売り飛ばされたりすることもあります」。
生涯の大半を木の上で暮らし、そこで食物の95%を得る樹上動物のオランウータンにとって、森林は生命線だ。しかし地元民が森林を農園に変えるために丸ごと焼き払ってしまうこともあり、棲み処を焼かれるだけでなく、命まで奪われることもある。たとえ逃げ延びても、プランテーションの労働者に殺されてしまうことも多い。痛ましいことに、食肉を目的とした狩猟もオランウータンの命を脅かし続けている。また、母親を殺して赤ん坊を奪い、ペットとして闇取引する業者もいる。
オランウータンが最も多く生息しているのは、ボルネオ島南部にあるタンジュン・プティン国立公園だ。ガルディカスはこの公園に研究施設、キャンプ・リーキーを設立した。名称の由来となったのは、彼女の師であり、人類の進化を解明したことで知られる古人類学者ルイス・リーキーだ。キャンプの主な目的は、科学者や研究者にオランウータン研究の拠点を提供することである。しかし、この聖域も安全地帯ではない。2016年以降、再び多数の密猟者や密売人が現れるようになり、オランウータンのみならずその他の動物もターゲットとなっている。
オランウータンを見に行こう:インドネシアのボルネオ島中部に、オランウータンとの遭遇率が世界で最も高いと言われるタンジュン・プティン国立公園がある。旅行代理店のアドベンチャー・インドネシア( adventureindonesia. com)は、この公園内の川をフェリーで行く数日間の探検ツアーを主催。ここには研究施設のキャンプ・リーキーがあり、ツアー参加者は管理者の案内で施設を見学し、熱帯雨林に返された高齢のオランウータンを見に行くことができる。
ホッキョクグマ
分類:VU(危急種) ※IUCN の定義
北極圏の食物連鎖の頂点にいる捕食者にも、絶滅の危機が迫っている。
北半球に生息する絶滅危惧種の中でも、ホッキョクグマは気候変動が及ぼす影響の代名詞的な存在と言えるだろう。絶滅の危機を招いた主な原因は、気温の上昇と、北極を覆う海かいひょう氷の減少だ。海氷はホッキョクグマにとって、狩猟や交尾などに欠かせない生息地であり、海氷上に巣を作ることもある。
さらに温暖化は、飢餓の脅威ももたらしている。ホッキョクグマは冬の間、海氷上でアザラシを狩って暮らす。夏になり海氷が消えると陸に上がり、ほぼ絶食状態となるため、春の間に大量の脂肪を蓄積しておかなければならない。しかし温暖化により、海氷=狩りの場が減少すると、十分な蓄えができなくなってしまう。さらに、ホッキョクグマは餌を食べないと1日あたり約1キロもの体重を失うため、たとえ夏に入っても、できるだけ長く狩りができれば、再び海氷が戻るまで生存できる可能性が高まる。
非営利保護団体、ポーラー・べアーズ・インターナショナル(polarbearsinternational.org)の顧問を務めるアンドリュー・デロシェールは、気候データと個体数の研究から、ホッキョクグマの存続について気がかりな予測が出ていると言う。「私たちは今、ホッキョクグマが海氷の消滅にはたしてどこまで耐えられるのか調査研究を行っています。推定では、海氷のない期間が年間180日以上続くと、生存率、繁殖率ともに下がり、個体数が減り始めます。海氷のない期間が210日を超えると、生存も繁殖もさらに困難になり、絶滅に向かうでしょう」。
「最近の分析では、北極圏内のカナダの高緯度地域とグリーンランド北部でホッキョクグマが生き残れるのは、2100年までと推定されています」とデロシェール博士は言う。「北極圏にはホッキョクグマの群れが19あって、それぞれ異なるシナリオを持っています。場所によって10年に30日のペースで海氷が失われている所もあれば、10年に6~12日の減少にとどまっている所もあるためです。また、既に19のうち3つの群れで個体数が減っていることが明らかになっています」。
ホッキョクグマを見に行こう:カナダのハドソン湾沿岸、ホッキョクグマの生息地に程近い町、チャーチルを拠点とする旅行代理店、レイジー・ベア・エクスペディションズ( lazybearlodge.com)では、ホッキョクグマウォッチングツアーを主催している。広々としたロッジを拠点に、ボートやシャトルカー、雪面を走れる専用大型車で生息地を探索。すぐ目の前にホッキョクグマが現れることもある。