ウエルネスツアー
今や日本は「日出ずる国」ではなく、「不死の国」になった。熱帯の島々からなる沖縄は、ブルーゾーンと呼ばれる長寿地域の1つで、寿命や健康寿命が世界平均を大きく超えている(沖縄女性の平均寿命は87歳)。レジリエンスの強さは、魚の多い食事など様々な理由があると言われるが、ハイエンドな国内旅行専門の ラグジュリーク (luxurique.com)の創設者、眞野ナオミは、スピリチュアルな理由も関係していると言う。「私たち日本人は、自分の心と向き合う習慣がDNAに刻み込まれているんです。パンデミックによる国境閉鎖が終わり、外国人の来日が始まりましたが、彼らは日本古来の伝統療法に触れてウエルネスを追求する旅を望んでいます」と語る。
福井県にある曹洞宗の大本山、永平寺では、僧侶が「坐禅」と呼ばれる瞑想を行い、外国人もルールを守れば日々のお勤めに参加することができる(かつてスティーブ・ジョブズも常連だった)。「朝の4時半に150人の修行僧が一場に集い、一糸乱れぬ呼吸で読経します。その荘厳な雰囲気に背筋がゾクゾクしますよ」と、眞野は語る。ツアー参加者は、寺の宿坊ではなく、近隣の高級旅館に宿泊し、越前ガニ(皇室に献上される唯一の献上ガニ)をはじめ、福井の素晴らしい郷土食を堪能できる。また福井は上質な和紙の産地としても知られている。
同社では森林浴も人気のアクティビティーのひとつだ。森林浴は自然の中を歩くだけでなく、古来より母なる大地によって浄化される儀式と考えられている。眞野が勧めるのは、ユネスコ世界遺産登録地である屋久島の屋久杉原生林だ。
沖縄の長寿地域も、ついにリュクスな旅行への門戸を開いた。これまで5つ星ホテルがなかった地域に、ハワイを拠点とするハレクラニホテルやザ・リッツ・カールトン ホテルが相次いでオープン。自然愛好家には、森の木の上にあるミニマルなツリーハウス、ツリーフル・ツリーハウス・サステナブル・リゾートで、資源の消費をミニマルに押さえた環境に優しい旅はいかがだろう。英国を拠点とするリュクスな旅行専門のブラック・トマト (blacktomato.com)は、フィールド・トリップ・シリーズの一つとして、13日間のアイランド・ホッピングツアーを催行している。このツアーでは沖縄本島はトランジットで通過し、直接、離島に向かう旅程で、与那国島でのダイビングや1870年代の琉球王国末期の面影を残す竹富島でのタイムスリップ体験などが楽しめる。
旅行トレンドを予測するグローブトレンダー社代表、ジェニー・サウザンは、17年前に英語教師として初来日した時のことを記憶している。「会社で親睦を深めるための温泉旅行を企画した時、初めて 『ウエルネス』という言葉を耳にしました。日本は、古来の精神と最先端の技術が共存しており、心身のグレードアップを目指す世界中のウエルネス旅行層が注目しています」と語る。今後の旅のトレンドは、楽しむだけではなく自身の変化を求める「人生を変えるリトリート」で、日本はそうした旅行者層の人気を集めると予想している。
アマン(aman.com)の 姉妹ブランドで、ウエルビーイングに特化したジャヌホテルは、世界3カ国で新たにホテルをオープンする。2023年秋、虎ノ門の麻布台ヒルズにオープン予定のジャヌ東京(ジャヌはサンスクリット語で「魂」、アマンは「平和」を意味する)では、従来のスパやヨガ以外にも、よりハードなフィットネスクラスや、ヘルシーな料理の短期講座などウエルビーイングへの新しいアプローチを目指している。眞野は、「私達はトレンドを追っているわけではありませんし、日本がウエルネス大国だとも思っていません。ただ祖先から引き継いだ伝統を海外の方に紹介しているだけなんです」と語る。