南アフリカのローカル食材を紹介
2018年、南アフリカのケープタウンは深刻な水不足に襲われ、貯水量はほぼ底を尽きかけていた。住民は一日13ガロンという厳しい節水制限を強いられ、わずか1分半のシャワーと、飲料水1/2ガロン、食器や洗濯物を洗うためのシンク1杯の水と、トイレ1回分の水しか与えられなかった。積極的な節水と待ち望んでいた雨が降ったおかげで、貯水量ゼロにはならなかったものの、以来、地域社会には、より持続可能な生活を目指す姿勢が根付いている。
そのひとつが、アフリカ固有種の植物の利用だ。干ばつが多く、気候変動の影響を受けやすいこの国では、より弾力的で持続可能な食料システムが不可欠だ。微量栄養素を豊富に含む固有植物は、20万年以上にわたって、アフリカの先住民であるコイコイ族やサン族の食生活を支えてきており、西ケープ州の森林、山、海岸砂丘は、その陸上生物の多様性で世界的にも知られている。
こうした中、持続可能な食糧供給をライフワークとしている地域住民がいる。非営利団体 ザ・ローカル・ワイルド・フード・ハブ (local-wild.org)を設立したルービィ・ラッシュは、自ら執筆した著書「ケープ州の野生の食材―栽培ガイド」 と、「ケープ州の野生の食材―料理ガイド」で、西ケープ州の忘れ去られた先住民の食材を紹介している。彼らのモットーは、そうした植物を、「知る、育てる、使う」ことであり、先住民の食材に関する教育の場を提供して、消費量を増やすことが目的だ。
例えば、南アフリカのセダーバーグ山脈で採れるルイボスティーは、抗酸化物質とポリフェノールが豊富で、糖尿病や心臓病、癌の原因となるフリーラジカルによるダメージから守る効果がある。またケープ州の海岸線は、あまり知られていない食用植物の宝庫で、その中には、アイスプラント、サンローズ、シーパンプキンなど、可愛らしい名前を持つ多肉植物も含まれている。アイスプラントは、ナトリウム、カルシウム、鉄などの微量栄養素を多く含み、野生のスイバはビタミンCを多く含んでいる。 他にもサンドクール(茎の長いブロッコリー)、ナマクワクール(野生のキャベツ)、スランベッシー(棘のある茂みに生え、見た目も味もミニトマトのようなもの)などの野菜や果物がある。
こうした食材を、より多くの家庭料理に使ってもらうため、ラッシュは地元の影響力がある人々に協力を求めた。ケープタウンの代表的なホテル、マウント・ネルソン・ア・ベルモンド・ホテル (belmond.com)のシェフは、ホテル内の「先住民の菜園」で栽培した作物、デューン・スピナッチ、スペックブーム、シーパンプキン、ウォーターベリーなどをメニューに取り入れている。
エグゼクティブ・シェフである、ジョージ・ジャーディンは、こうした食材は食卓を楽しませると同時に、食育の機会になると歓迎している。「ゲストは、聞いたこともないような野菜や果実、種を見て、名前や味に興味を示します。入植者が来るよりずっと以前からあった固有の植物を紹介できるのは、私達にとっても大きな喜びです」と語る。
ラッシュは、古代の食材を試すことに躊躇している人達へむけ、私達の祖先はこうした食材から、信じられないほどの栄養を得てきたのだと語る。「私達の祖先は、この土地の食材だけを食べて生き抜いてきたのですから、栄養価が高いのは明らかです」。上手に調理された食材は、理屈抜きで美味しいのだ。